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東京地方裁判所 平成12年(ワ)5301号 判決

原告 寺田徹

右訴訟代理人弁護士 河野純子

飛田秀成

被告 東松苑株式会社

右代表者代表取締役 中島篤志

右訴訟代理人弁護士 服部弘志

朝日純一

川端基彦

角谷雄志

八木一晃

主文

一  被告は、原告に対し、金一五〇〇万円及びこれに対する平成一一年一〇月一八日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

主文同旨

第二事案の概要

本件は、被告の経営するゴルフ倶楽部に入会した原告が、入会の際預託した資格保証金について、会則に一〇年間の経過後と定められた返還期限が到来したとして、被告にその返還を求めている事案である。

一  当事者間に争いのない事実

当事者間に争いのない事実は以下のとおりである。

1  被告は、東松苑ゴルフ倶楽部(以下「本件倶楽部」という。)を運営する株式会社である。

2  原告は、平成二年五月一五日、被告との間で、本件倶楽部の入会契約を締結し、会則に基づき、別紙目録記載のゴルフ会員権の資格保証金として、一五〇〇万円を被告に預託した。

3  本件倶楽部の会則(以下単に「会則」という。)には、資格保証金に関し、本件倶楽部オープン後、正会員については満三年、平日会員については満一〇年間をそれぞれ経過したのち、退会希望者に返還する、但し、天災、地変その他会社の責に基づかないやむを得ない事情が発生した場合には、その事情が止んだときより正会員については三年間、平日会員については一〇年間据置期間は延長されるものとするとの規定がある(会則八条)。

また、会則二一条は、本規則に定めのない事項或いは、改廃変更は、理事会に於いて審議のうえ之を会社取締役会に於いて決定すると規定する。

4  本件倶楽部は、平成一一年一〇月一五日にオープン後満一〇年を経過した。

5  原告は、被告に対し、平成一一年一〇月一七日、本件倶楽部を退会し、資格保証金一五〇〇万円の返還を求めた。

二  争点

1  預託金返還請求権は、会則八条但書により当然に延長され、あるいは会則の変更により延長されるか。

2  ゴルフ会員権の集団性、牽連性、包括性、継続的性格、出資金的性格などの特殊性から、預託金返還請求権は制約を受けるか。

三  争点に対する当事者の主張の概要

1  預託金返還請求権は、会則八条但書により当然に延長され、あるいは会則の変更により延長されるか。

(被告の主張)

(一) 会則八条に関して(主位的)

(1)  本件倶楽部会則には、「天災、地変その他会社の責に基づかないやむを得ない事情が発生した場合には、その事情が止んだときより正会員については三年間か、平日会員については一〇年間据置期間は延長されるものとする」(会則八条但書)との停止条件が付されている。

(2)  「天災、地変」は「会社の責に基づかない」事情の例示に当たり、「やむを得ない事情」には、社会的、経済的事情も含まれるところ、現在、今般のバブルの崩壊後、長期かつ甚だしい会員権相場価格の大幅な額面割れと、これに基づく会員からの返還請求の殺到と返還不能が予想される事態に至っており、この事態は、右要件を満たすものである。このように解することが会員の総意でもある。

(二) 会則の変更(二一条)に関して(予備的)

(1)  被告では、(一)(2) の事態を想定し、平成一一年三月二五日、取締役会を開催し、右事態が会則八条但書に該当することを確認し、償還期を一〇年後とすることの承認を求めることとした上、同月二八日に理事会を開催して償還期限を延長する同意を得ることにつとめることなどを決議し、これに基づき平成二一年一二月三一日までの償還期限延長のお願いを会員に送付するなどした結果、平成一二年四月一一日現在で、正会員の八三・一七パーセント、平日会員の七七・七一パーセントが償還期限延長に同意し、平成一二年五月一六日現在、総会員数の七九・九一パーセントが償還期間延長に同意した。

(2)  被告は、右(二)(1) のように、当然延長されるという条件に対して、説明し理解を求める義務を果たした。

(3)  被告の右のような行動は、会則二一条に基づく会則の変更手続とその実施ともいうべきものである。

(原告の主張)

(一) 会則八条但書にいう「その他会社の責めに基づかないやむを得ない事情」とは、天災、地変に準ずるものをいうのであり、バブル崩壊等経済的事情は、本件会則八条但書の事由に当たらない。

(二) 据置期間の延長(変更)は、会員の契約上の権利を変更するものであるから、会員の個別的承諾を得なければならない。原告は承諾していないから、据置期間の延長の効力を主張することはできない。

2  ゴルフ会員権の集団性、牽連性、包括性、継続的性格、出資金的性格などの特殊性から、預託金返還請求権は制約を受けるか。

(被告の主張)

預託金返還請求権は、次のような事情による制約を受けるから、信義則上、その行使は許されないというべきである。

(一) (集団性、牽連性)

ゴルフ会員契約は、多数の会員が一人の事業者と集団的に締結し、他のすべての会員の会員契約と牽連性を有するから、一人の会員権行使は必然的に他の会員の権利義務に影響を及ぼす。利用権といえども任意かつ常に行使できるものではなく他の会員の予約などによって行使できないこともあることを受忍しなければならない。

これと同様、預託金返還請求権の行使も、会員契約の牽連性、手段性に起因する内在的制約に服する。また、ゴルフクラブは会員相互の親睦を目的としているからこの目的によっても拘束を受ける。

(二) (包括性等)

会員契約は、施設利用権、預託金返還請求権、年会費支払義務その他の権利義務を内包する複合的な権利義務関係であり、包括性を特殊の性格としているから、預託金返還請求権も会員権の中核である施設利用権に支障が生じない範囲で制約を受けるべきである。

(三) (継続的制約等)

会員契約は、継続的性質を有するものであり、これの解消のためには正当化する事情が必要である。ゴルフ場を破綻させるに至る退会は認められるべきではない。

(四) (出資金的性格等)

会員は、会員権を市場に売却して投下資本を回収する方法を考えていたのであって、退会により預託金返還請求権を行使することを考えていたのではない。関係者すべてが右肩上がりの経済を妄想しこれを前提とする投下資金の回収を目的として入会したのである。そうであれば、預託金返還請求権はゴルフ場存続に関する点で制約を受けることになる。

また、原告の主張を認めると、出資法違反の疑いが生じる。

(原告の主張)

被告の主張は、自らの経営見通しの甘さを棚に上げ、バブル経済崩壊により、会員からの預託金返還請求に応じると被告の経営が成り立たなくなるとして会員からの負担を転嫁するという無責任極まるものである。いずれも独自の理論であって、主張自体失当である。

第三争点に対する判断

一  争点1(会則八条但書あるいは会則変更による延長)について

1  会則八条による延長について

会則八条但書にいう延長事由である、「やむを得ない事情」とは、その文脈上、その前に例示する「天災、地変」に類する避けることのできないようなものを意味すると解するのが相当である。

「天災、地変」は「会社の責に基づかない」事情の例示に当たるとの被告の主張は、文脈上からも、また会則八条但書が理事会等の決議を要しないままその事由が止んだときから三年などと不確定期限を付していることからも採用することができない。

本件で被告の主張する事由は、バブル崩壊のような経済事情の変動等によるゴルフ業界の不振などの事態であって、これが右会則における「天災、地変その他会社の責に基づかないやむを得ない事情」に当たらないことは明らかである。

このことは、「やむを得ない事由」の具体的内容とその説明、償還期限(平成二一年一二月三一日)の明示など、各会員に対応しようとした被告の行為によっても変わるものではない。また、現段階で、会員の総意であるからといって、右解釈が変更されるものでもない。

そのほか、争点2と重複する点も含め、会則八条但書の要件該当性に関する被告の主張は採用しがたい。

2  会則二一条による延長について

本件では、理事会の審議と取締役会における決定が行われていないから、会則二一条の会則の変更事由に該当しないことはもちろん、そもそも、預託金返還請求権は、会員の基本的権利であるから、会員の契約上の権利を変更することに他ならない据置期間の延長については、会員の個別的な承諾を得ることが必要であって、個別的な承諾を得ていない本件においては据置期間の延長の効力を主張することはできない。

二  争点2(集団性、牽連性等による制約)について

1  (集団性、牽連性)について

預託金返還請求権は会員の基本的権利であり、これを、ゴルフ場の施設の規模などの物理的事情により事実上制約され得るゴルフ利用権と同一に論じることはできないというべきである。ゴルフ場が、多数の会員のために、長期間、安定的に施設を利用できる状態を維持する必要があるとしても、これによって、個々の会員の預託金返還請求権が制約を受けるとするのは妥当ではない。

2  (包括性等)について

会員契約が複合的な権利義務関係を持つとしても、一つの会員契約の中で利用権等と預託金返還請求権が相反するわけではなく、支障が生じうるのは他の会員契約との関係であって、それを調整する義務がゴルフ場にあるとしても、それによって、個々の会員の預託金返還請求権が制約を受けるとするのは妥当ではない。

3  (継続的性格等)について

預託金の返還は、原則として据置期間という一定期間の経過により認められるものであるから、継続的関係における一方的解除の場合と大きく異なる。したがって、契約関係を継続し難いような不信行為の存在等やむを得ない事由が必要であるとはいえない。

4  (出資金的性格等)について

会員は、入会契約を締結した後、ゴルフ会員権の譲渡価格が預託金額を上回っている場合にはゴルフ会員権を第三者に譲渡し、ゴルフ会員権の価格が預託金を下回っている場合にはゴルフ場経営会社に対して預託金の返還を請求して少なくとも預託金の額面を下回ることのない投下資本の回収を図ることができることになる。入会当時の経済状況から、前者が専ら関係者の予定するところであったとしても、法律上、会員が後者の方法をとることが、事後的に許されないとすることはできない。

右のように解したからといって、出資法違反となるものでもない。

三  その他

被告は、そのほか、利用権の存続を希望する大多数の会員が不利益を被るなど集団の不利益を種々主張しているが、それによって、ただちに個々の会員の基本的権利である預託金返還請求権が制約を受けるものとすることは妥当ではない。

被告はその他、最高裁判決(平成一二年二月二九日第三小法廷判決民集第五四巻第二号五五三頁)を引用するが、本件とは事例を異にし、その理論を援用することは相当でない。

右にみたとおり、被告の主張はいずれも理由がない。

第四結論

以上のとおり、原告の請求は理由があるので、これを認容することにする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 足立正佳)

目録

一 被告の経営する東松苑ゴルフ倶楽部に対する左記内容のゴルフ会員権(施設利用権及び預託金返還請求権)

会員権種類 個人平日会員

会員券番号 第WKS―五号虎

会員登録名 寺田徹

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